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しわくちゃのあれそれ
彼らは時折、特異性のある技術を無駄使いをする。
皺くちゃになったこのロングスリーブTシャツもその一つだ。
皺加工を施す場合、多くは揉み洗いによるワッシャー加工、ポリエステルなど熱に弱い特性を持つ物を加え熱を与え変形させるプリーツ加工という方法をもって行なう。
このロングスリーブTシャツは伝統的な染色技法である絞り染めという方法を用いて、その最大の特徴で色を加えずにただ皺になるようにするためだけに加工を施している。現場の人は混乱したかもしれない、色が最大の魅力だろうと
当然、前者の加工に比べ、手作業も多く効率的とは言えず手間賃も高額になる。
有松絞りに見られるような日本の伝統的な染色技術は、近年西洋東洋問わず西洋のコンテンポラリーなメンズウェアから東洋発のラグジュアリーなカジュアルウェアなどで散見される。
経済や世界情勢の不安から、世間ではより確かそうな物や、逆の不真面目な物つまりバッドテイストな物への憧れ、消費嗜好、マーケットがこの数年で広まり、それらはニ分されていく。
デムナヴァザリアを起点に広がっていったバッドテイストなる物は模造品から類似性のあるものまで街に溢れ、それらの憧れに対する希少性は当然静かな物へとなっていく。
そして、これから数年でより一層確かそうに見える物へと食指が伸びるフェーズに入っているように思える。僕自身も含めて。
一方、僕自身のファッションに対しての捉え方は常に道具的な物としてであり、日常を機能的にも感情的に対人的にも気持ちよく過ごせることが重要だと考えている。
大きな物語の中に、潜む小さな物語、個人的な喜びや発見から僕は心地よさや物理的なコミュニケーションを読み解くことに幸せを感じている。
それはコンセプトかも知れないし、ポケットの位置や袖の長さ、特定の文化からくる事かも知れない。それは大袈裟なことではなく、少し大きなポケットや長すぎる袖、ナイロンが擦れる音、必ずしもデザイナーが意図していない何かにまで、ここが好きなんだよねと言葉にすらならず感じることの延長上にある要素だと考えている。まあ凄く無駄なんだけどね、好きだから仕方ない。
だから、洗濯機に回したあとの皺くちゃになった部屋着をスナップしたようなデザインのロングスリーブTシャツは、洗濯伸びしたような首周りの寸法や、量販店にありがちな袖リブの仕様に僕は何かを感じるし、バインダー処理を施し首が伸びないよう、アームは程々にタイトに設計され、絞りの具合は不恰好にならぬよう縦に鋭くプリーツ施された仕様には現代的な機能性と美的感覚を感じる。
単純な切り取りや偶然性、日常への眼差しではなく恣意的に気持ち良く着られるよう、ファッションデザインとしての工夫がなされている。
優れたプロダクトは意図や工夫を隠すことで機能として示し、優れたアートは意図や工夫を読み解けるように視線を誘導する。
ファッションデザインはそのどちらでもなく非常に曖昧な分野だ、彼らはその幅の中で出来うる準備を施して日常感覚の延長の中で新しい気持ちにさせてくれる。新しいコミュニケーションが生まれる。日常に新しい何かを与えてくれる。
少なくとも僕にとっては。
そうこう書いているウチにこのロングスリーブTシャツは売り切れてしまった。
A MACHINE は発表の方法や販売方法、シーズンのルックに至るまで幾分アヴァンギャルドなイメージで見られてしまう事が多いが、このTシャツのように日常的にチンドンせず、新しい感覚を与えてくれる物が多い。
贔屓にしてくれているお客様の幅も、メゾンを中心に購入されている方や、スタイリングファーストな方、本当に工夫せずにただただ服として気持ちよく着ているだけの方まで幅広い。←悪口じゃないです、、笑
他にも沢山面白い物や気持ちが良くなる物、用意ありますのでどうぞご贔屓に宜しくお願い致します。
HB店主